メアリーレポ

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大井町クリームソーダ『天使のお仕事』長文感想レポート


大井町クリームソーダpresents『天使のお仕事』
10月18日 16時の部を観てきました。感想と解釈を、文章の練習や自分用の忘備録も兼ねて書き留めておこうと思います。長いです。

 


大井町クリームソーダとは】

声優の入江玲於奈、西山宏太朗、谷口悠(敬称略)からなる、新鋭エンターテイメント集団。
10月17,18日、オムニバスストーリー『天使のお仕事』の舞台公演を開催。
11月からはアニメイトTVでの冠ラジオ番組の配信も決まっている。

……という結成報告を聞いたときは、ま〜何をする団体なのか全く分かりませんでした。
大井町さんのことはTwitterのRTで知ったのですが、シュワシュワ~♪と擬音を発する広報ツイートのゆるさに困惑!一体どのような活動を基軸にしていく団体なのかとブログを見ると、結成3ヶ月後に早速公演を打つというのだから驚きました。
稽古の時間とか取れるのかな?キャパどのくらいなの?ていうか天使ってなんなんだ? と、ファンの皆さんも動揺しているうちに、どのような公演なのかは謎に包まれたままチケット販売開始。すごい、なんというかノリと勢いを感じるぞ、大井町

 

【小劇場GEKIBAに到着、開演までの緊張感】

劇場は池袋の入り組んだ場所に佇む小劇場。声優さんの公演で場所が池袋ということもあり、青い袋とか持ってる人がちらほら。本店あるもんね! 防衛部の熱史くん(cvが西山さん)のキーホルダーを付けてる人も見かけました。
やはり来場者の大多数は、声優ファンの女性のようでした。小さい劇団の芝居とか見たことないーという方がほとんどの様子で、入場して早々に「近ッ……!?」と、ステージとの距離に喜びの悲鳴を上げている方が多かったです。最前列なら1m未満かも。私はやや上手寄りの中央といった感じの席でした。

こういう劇団公演などでは大抵、座席の上にフライヤーやらチラシやらが置いてありますが、大井町さんも例に漏れず。ユニットメンバー以外のキャストさんも出演されるということで、フライヤーのキャストコメントとその隣の似顔絵(よく見ると似てる気がしてくる)を眺めたりして、ドキドキしながら待機。
ゲストは小田柿悠太さん/81プロデュース鈴木裕斗さん/アミュレート、沼裕華さん/フリーユニット"きゃみぬま"のお三方。小田柿さんは脚本にも参加。沼さんは紅一点キャストです。

配布されたプログラムは、『Oh!Cream CAFFE』のメニュー表を模したデザイン。
所々不穏な言葉も並ぶ10タイトルには価格が設定されており、こちらの数字を全て足すとチケット代金の3,000円になるという洒落。価格基準は最後まで不明でした。

 

それではメニューに沿って、覚えている範囲で簡単なあらすじと感想レポートを。
忘備録目的なので冗長ですが、覚え違いをしている部分がございましたら、ご指摘頂けると嬉しいです。

 

【1.Voice actor work1 声優のお仕事1 …120yen】

舞台はドラマCD収録中のスタジオ。
主人公役の若手声優(鈴木さん)の下手な演技に、監督(谷口さん)が吐き捨てるようにダメ出しを続ける。理不尽な指摘に困惑する声優。一向に収録は進まない。
他スタッフは無言でリアクションをするのみ。原作者(女装の西山さん)は何か言いたげだが、シャイなのだろうか、どうにも言わせてもらえない。監督以外のスタッフは、そうだそうだと同意するような表情を浮かべるのみで、沈黙を続ける。
妙な空気になってしまうスタジオ、上手くいかない収録……。

横這でグダグダとした様子の話なのですが、その気まずい空気がコメディタッチに描かれていました。なんとかゴルゴンゾーラみたいな作品名が出るたびに語感に笑ってしまった。
大井町メンバーの三名も脚本に参加していますし、声優として見てきた現場に思う所もあったのでしょうか、コミカルなのにやけにリアルです。ですがこの時点での客席の笑い声は、まだまだ控えめ。
この人物設定のまま、『声優のお仕事』は1,2,3と続きます。


【2.Band work バンドのお仕事 …680yen】

いま乗りに乗っている4人組バンドと、その女性マネージャーの物語。
ドームでのライブを終えた控え室でハイタッチし盛り上がるメンバー。しかし突如、ドラマーが「このバンドを辞める」と言い出してしまう。
キレるドラマー、なだめる他メンバー。売れっ子バンドはどうなってしまうのか……?

ボーカル・入江さん、ギター・西山さん、ベース・谷口さん、ドラム・小田柿さん、というメンバー編成で、なんだか本当にいそうな雰囲気の配役。
ひたすら不遇なドラムと、彼をないがしろにしている自覚のないメンバー。でも実際、ドラム担当ってライブが盛り上がっても持ち場から動けないのとかかわいそうですよね。
ドラムの知らないところでオタサーの姫ならぬバンド内の姫となっていたマネジ(沼さん)がなんとも良い味で。紅一点キャストを入れた理由も納得です。これは本物の女性だからこそ笑える!
ギャグとしてはオチがちょっと弱かったのですが、逆に「ああ、このドラム結局辞められないんだろうな」と思えるのもまた面白さでした。そういう人間関係、よくある。


【3.KUZU work クズのお仕事 …380yen】

男(入江さん)が女(谷口さん)に告白をするところから話が始まる。
振られてしまった男は負けじと「今から俺のことをよく知ってる奴らが来て、俺のいい所をプレゼンしてくれるから聞いて欲しい」と女性を引き止める。
小学校の同級生、キャバ嬢の友人、そして実母からのプレゼン(?)は、好感度を上げて上げて突き落とす!

いじめられっ子(鈴木さん)を助けた感動のエピソードに涙する面々。かと思えば、助けたのは男ではなく宏太朗くん(台詞内で名前のみの登場)。入江さんはいじめっ子だったというクズぶり。去り際にいじめられっ子の見せた怨念演技に鳥肌。このあたりから鈴木さんが気になり始めました。
キャバ嬢(沼さん)を泥沼から救った優しいホスト……というのも件の宏太朗くんであったが、嬢にお金を稼がせて遊び歩くヒモと化していく。宏太朗いじめっ子を助けるいい奴じゃなかったのかよ!?
と思いきや、クズ男も「宏太朗の紹介してくれる女はアタマもおマタもゆるくて最高」といった意味合いの酷い台詞を嬢の背中に吐き捨てる。最初に告白された女性も、わけもわからず引くばかり。
背中の曲がった白髪の母(小田柿さん)が持ってきた仕送りを母の目の前で数えるクズ男、もう清々しいほどのクズっぷりです。入江さんの悪い顔がたまらない。照明や音響でも客席を笑わせていました。


【4.Woman work 女のお仕事 …580yen】

自称・サバサバ系女(小田柿さん、鈴木さん、西山さんの女装)のランチタイムに混ぜてもらった後輩の女性(沼さん)。先輩のサバサバトークに「かっこいいです!憧れます!」と目を輝かせる後輩。
しかし、「アタシ、ほぼ男みたいなもんだから〜」という話題になった途端、やけに張り合いはじめる先輩三人。飛び交う話題はハブや熊狩りなど、次第におかしな方向へシフトしていく。

このお話が個人的にはツボでした。見に来る方がほぼ女性と分かっている上で、女性あるあるの皮肉をぶち込んでくる大井町クリームソーダ……この辺りでああ、この公演やばいなと察しだす。
「アタシ達くらいのレベルになるとぉ〜、他の子じゃ付いてこれないよねぇ〜」
「今日のパスタ銀座って感じした〜」
「あ、みんな写メ撮っていい?インスタ〜(頬に手を添えてキメ顔)」
こういった台詞を、男友達とのエピソードの合間合間に挟んでくる脚本が秀逸です。

ねちっこいプライドの張り合いはリアルで笑えない。長い髪をいじりながら慣れ合うサバサバ女子、本当に昼どきのPRONTOあたりに居そうです。
……オタクの女性もこういう感じの人よくいますよね。私も気をつけます。


【5.Lover work 恋人のお仕事 …360yen】

女性(沼さん)が自室にて、異性らしき相手と電話をするシーンから始まる。幸せそうに好き好きと連呼をする女性。
ふと、男性(鈴木さん)が部屋に現れる。それに気付かず通話を続け、そのうち部屋を出た女性。彼女は浮気をしていたのだった。
そんな男が立ちすくむ彼女の部屋に、なんと先程まで電話をしていた件の浮気相手がやって来てしまう……。
と、一見すると鈴木さん演じる男がただ可哀想な話になるのかと思われたが、そこへ女性のタイツを嗅ぐストーカー(入江さん)と、身体にストッキングを纏った師匠(小田柿)さんまで現れ、次第におかしな状況になっていく。

彼氏面なだけで実はストーカー、事実上彼氏だけどあえてやるストーカー、部屋に忍び込む王道ストーカー、そして臭ければ男の臭いでもいいプロストーカー。「さあ、貴女はどのストーカーを選ぶ?」と天の声。乙女ゲーのキラキラCM風の演出はずるい。
女性向けコンテンツあるあるネタに、女性の敵でしかないストーカーを掛け合わせるというブラックジョーク、今回の客層にはかなり効きますね。客席からも黄色くない悲鳴が飛び交いました。いや、普通に気持ち悪い。褒め言葉です。
そして容赦のない下ネタにざわつく若いファンの皆さん。いま君たちア◯ルとか言ってたでしょ?ごにょごにょぼかしたけど絶対言ったよね?


【6.Voice actor work2 声優のお仕事2 …120yen】

『声優のお仕事1』のストーリーやキャラクターは引き継いでいますが、今度はアクションがメイン。表情や間を見せてくれた1に対して、2は対照的に動きとリズムで魅せてきます。
相変わらず下手なキャストに苛立つ監督(谷口さん)と、監督に対して怒りを爆発させた原作者(西山さん)、二人の殴り合いバトルがメインです。

あの『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY』に合わせ、スケッチブックで谷口さんを殴り続ける西山さんはシュールの極みと言った所でした。照明も効いてる。
え?曲名言われてもわからない?これですこれ!
https://www.youtube.com/watch?v=LQTAmd82aPc
イントロだけで会場も湧きました。リズムネタは狭い空間ほど面白くなりますね。


【7.Junior work 後輩のお仕事 …180yen】

バスケ部の上級生(谷口さん)と、後輩(入江さん)、登場人物はこの二人のみ。
ボールを磨くよう指示する先輩の言葉をスルーし、帰宅しようとする後輩。喋り方や先輩の台詞から見るに、後輩はどうやら金持ちの家の子のよう。
先輩の命令を聞きたくない後輩は、鞄から千円札の入った封筒を取り出し、笑顔で投げ捨てた。動じない先輩に、今度は5千円を放る後輩。「金額の問題じゃねえよ」という言葉も聞かず、金額は上昇していく。
とうとう床に散らばるお札が20万円となった頃。ついに先輩の手が封筒に伸びたとき、後輩が発した一言が、彼らの上下関係を狂わせていく。

とにかく特徴的だったのは入江さんの声。文字では表現しがたい独特のお坊ちゃまボイスは面白さと可愛さが両立されており、客席からも笑い声や「かわいいー」との言葉が聞こえました。
しかし、その声で「ここに30万がありますっ♪」と金に物を言わせる姿がなんとも恐ろしく、先輩との取引がエスカレートするたびに、私たちの笑い声も徐々にどよめきへと変わっていきました。
金の力があれば嫌な先輩を犬にもできる。札束を手に悲しく響く犬の遠吠え。私も金持ちになりたいです。それが幸せかどうかはさておき。


【8.Man work 男のお仕事 …450yen】

客席の声のピークがここであり、おそらく最大の問題作。
3人の男(小田柿さん、西山さん、谷口さん)が、彼らの『仕事』の意味や目的を語るという、一見真剣なストーリー。
この『仕事』を男である自分がやる理由や意味がわからないという若手の谷口さんと、金さえ貰えるならば理由など要らないと言う西山さん。その二人に、結婚や妻の妊娠など、人生の節目における男の生き方を語り、働く意味を説く先輩の小田柿さん。熱い男の人生観に、感動的なムードが漂う。
しかし、照明がホットピンクに切り替わり、BGMが鳴り初めた瞬間、彼らの表情が変わる!

客席からの笑い声は、この時が最大音量でした。前の方にいる女子高生くらいの子を一瞬心配しましたが、そんな冷静な思考能力も消し飛ばされるようなお三方の腰振りダンスが始まると、もう爆笑が抑えられない!
おそらく設定はお触りOKのショーパブなのですが、男3人が女装もせずにヒップをくねくね振り、音楽に合わせて煽情的なパフォーマンスを晒す様は、本当に直視していいものなのか分からなくなる代物。

更に「さぁさぁさぁ〜!今夜はドンドン揉んじゃって〜舐めちゃって〜挟んじゃって〜!」みたいな司会(多分入江さん)の煽りがずるい、腹筋に追い打ちを掛けてくる。いやこの人たち挟むモノ無いでしょ?小田柿さん「俺はある」なんて言わないで!
西山さんがナンバーワンという設定と、そのときの彼のドヤポーズが、個人的にはじわじわ来て笑いました。

『声優のお仕事2』に続き、爆音で流れるBGMと照明が卑怯でしたね。使用曲はこちら。キャストさんの世代を感じる選曲。
https://www.youtube.com/watch?v=T9sz9QzsWXc


【9.Birthday work 誕生日のお仕事 …10yen】

このパートが唯一、演者が大井町クリームソーダの3人だけで構成された演目ですね。

せっかくの誕生日なのに、大好きな彼女と連絡が取れなくなった男(入江さん)。友人(谷口さん)に慰めてもらっているが、連れて来られた店はちょっと変わった雰囲気。
とにかく今夜はヤケ酒だ!と愚痴る男。すると、ハッピーバースデーの歌を歌う店員(西山さん)がケーキを持って現れる。自分へのサプライズかと思いニヤニヤと喜ぶ男、しかしそれは隣の女性充てのサプライズだった!
一緒にハッピーバースデーを歌うよう店員に強制され、二人の間に気まずい空気が流れだす……。

まあ、ここまでならばただのすれ違いネタで終わるのですが、大井町さんの脚本が一筋縄ではいかないのは、終盤になればもう察しますよね。
誕生日を祝ってもらえることに期待している男と、なぜか何者かの遺骨を持参しているという友人、友人と何か目配せしていそうな店員。口論による紆余曲折の末、ついに主人公の男にハッピーバースデーソングが向けられる。ほっと安心する主人公と客席の我々。しかし店員が持ってきたのは、なんとケーキではなく先ほどの遺骨だった。呆気にとられる男に、友人は不気味に囁く。「会いたかったんだろ……?」

誕生日ネタをヒューマンホラーテイストで締めてくるとは思いませんでした。まさかの背筋の凍る結末に、悲鳴とざわつきを残したまま暗転する会場。前の「男のお仕事」との温度差が激しすぎて、室温まで下がったかのような錯覚に陥ります。谷口さん、怖い演技がハマりすぎる……。
明確な結末は語られぬまま、そのまま最後の演目へ。


【10.Voice actor work3 声優のお仕事 …120yen】

『声優のお仕事』3部作のラストで締め。

1,2で収録されていたドラマCDが無事に大ヒットを記録し、アニメ化が決定。祝杯を交わすスタッフや原作者の面々。あまり喋れなかった監督も、通訳役の女性によって盛んに喜びの意思表示をする。1とは打って変わって和やかなスタジオ。どうやら主人公の演技が評判となり、売れ行きが伸びたらしい。
そこに現れたのは、のど飴片手にマスク姿の男性(小田柿さん)。監督がスタッフに紹介する。「彼がドラマCD版の主人公役、小田柿くんです」
そう、ドラマCDで主演を演じていた声優(鈴木さん)は、アニメ化では降板されてしまったのだった。ライトが落ち、鈴木さんにスポットが当てられ、彼は呟く。「バイト行こ」。

見事な声優業界への皮肉でした。
こういうキャスト変更って本当によくあるんですよね。立ち振る舞いからして、小田柿さんは売れっ子声優という役柄なのでしょう。ドラマCDだけ新人を起用し、アニメ化では売れっ子に、という変更を、たしかに私も何度も見てきました。
「ドラマCD主人公の演技が評判」という旨の台詞がありましたが、あの後声優の努力によって上手くなったのか、それとも棒読みっぷりが話題になったのか、その真偽は明らかにされていません。いずれにしても可哀想な主人公役。
声優としての仕事を勝ち取れず、「バイト行こ」と呟いて去る。事実、バイトで生計を立てる声優が、この世には星の数ほど存在しています。

きっと現在もオーディションを重ねているであろう、今回のキャストの皆さん。
そんな方々が自ら声優業界の陰の部分を演じ、我々声優ファンにその姿を見せるということに、色々と考えさせられました。けれども、その後味は悪くない。

 

 

【最後まで笑い声の耐えなかった会場】

以上、10項目のオムニバスを立て続けに演じたキャストの皆さん、本当にお疲れ様でした。
シュワシュワなんて可愛い擬音も使ってられないような、強炭酸でパンチの効いた脚本。それを全力で演じるキャストの皆さんのパワフルさに、拍手を止めたくなくなかったほど、胸がいっぱいでした。

所々で女装やら衣装替えやらが出てきますし、休む間も少なく大変だったろうなと思います。ゲストさんが居なければ、この物量は厳しいですね。袖幕や大黒が時々ぼよんぼよんしていて、裏方さんやキャストがせわしなく準備をしている様子が伺えます。
凝った小道具や衣装はほぼ使わず、置き道具も椅子三つ・机一つ・スタンドマイク一つと控えめ。若手劇団さんのコメディ作品というと、装いや道具、SEなどに頼りがちなのですが、大井町さんは終始お芝居メインでの勝負でした。女装姿も見た目のクオリティは低い(笑)のですが、仕草と喋りが完全に女でした。西山さんとか女性役上手だったなあ。

また、本業が声優さんの公演なので、最初は「あまり動かないのかな?」と思っていましたが、中盤から後半にかけて大きな動きも増えていきます。声優イベントでよくある小芝居でも朗読劇でもなく、ちゃんと"お芝居の公演"でした。

谷口さんはキャラクターごとの変化が大きく、誰よりも汗をかきながら頑張っていてかっこよかった。入江さんは様々な声色への切り替わりで、観客を魅了していました。西山さんは普段の柔らかい雰囲気とのギャップが大きくて驚きましたね。
小田柿さんの動きはダイナミックで、なおかつ終始安定感があり、彼が先導してくれているような部分もあった気がします。沼さんの純粋に可愛いと思える仕草も、やはり本物の女性でないと出せないものがあった。悪女チックな表情が素敵でしたね。
個人的には、鈴木さんの演技がとても好みでした。立ち姿が綺麗。緩急や顔つきの変化も巧妙で、お声そのものも魅力的。恥ずかしながら、鈴木さんのことは今回まで存じ上げなかったのですが、今後の彼の活動を追いかけたくなりました。

内輪ネタのイベントではなく、芝居そのもので魅せるステージ。演者と客席が一体になって楽しめる場。
ブログの発足宣言にあった、『面白い事、楽しい事をひたすら追求する集団として活動していきます』という言葉通りの公演でしたね。
次回の公演は、2016年6月に開催予定とのこと。次も是非この目で、大井町クリームソーダの公演を見たい。そう素直に思えるような、素晴らしい時間でした。

 

【観客である私たちにできることとは】

これは個人的に感じたことなので、スタッフさんのアナウンスを受けての意見ではありませんので、ご了承ください。

こういう規模の小さい公演は初めてという方が、今回のお客さんのほとんどを占めていたかと思います。いつも行くような大きなホールの声優イベントでは、客席ごとに段差などがあり、ステージも見やすいですよね。
ですが、このような小劇場はステージと客席の距離が近い分、高さのある帽子やカチューシャなどはできるだけ外す、開演前の大声での私語は慎むなどといった、近くの方への気配りが必要です。
私自身も、うっかり大きな鞄で来てしまったので、出入りの際に隣の方へご迷惑をお掛けしました。
また、出待ちや入り待ちは禁止という事前告知があったにも関わらず、そのような方がいらっしゃったと広報Twitterでアナウンスがあり、申し訳ない気持ちで一杯でした。

とはいえ、最初は各々動揺していたお客さんたちが、小さな劇場で笑いという感覚を共にしていく様子は、通常の声優イベントの現場では体感できない魅力的なものでした。本当に楽しかった。
これからも、他のお客さんやキャスト・スタッフさんへの配慮を忘れず、皆で和やかに大井町クリームソーダさんを応援していきたいですね。

 

【公演名『天使のお仕事』の意味と、お三方の意図とは】

最後に、帰宅しながら『天使のお仕事』というタイトルの意味を深読みしていました。あくまで私個人の解釈です。だって作中に天使なんて一度も出てこないんですよ?このタイトルにした理由がどうしても気になり、考え込んでしまいました。

最近、二次元のキャラクターに対して、『天使』という言葉を使う方が多いですよね。『俺の嫁』や『尊い』などと同じ、オタク言葉の一つだと思います。私もたまに「今日も七瀬陸は天使だった」みたいなこと言っちゃいますし。
そして今は、中の人である声優さんにもその言葉は向けられているのです。適当な男性声優名・スペース・天使、でツイート検索を掛けるだけで、成人男性がパステルカラーのアイコンから「◯◯くん天使すぎる」と崇められている様が見られます。この偶像崇拝、まさにジャパニーズオタクカルチャーだなと思って常日頃から静観しておりました。
橋本環奈ちゃん等のアイドルを称えるものとして使用されていた、この「天使すぎる」という表現が、今では男性の声優にも使用されている。彼ら若手声優が、アイドル的に鑑賞され、崇拝を受けていることが分かります。もう声優の顔出しや容姿が評価されるなんてことも、すっかり当たり前になっていますしね。

そんなファンへのちょっとした挑戦が、この『天使のお仕事』だったのかも知れない。私はそう感じました。

業界の不条理、男と女の関係、結婚の話や性の話、金や死というものの怖さ。今回のオムニバスの題材はどれもこれも、声優さんやタレントさんが決してファンに見せることのない、人間の陰の部分。
それを『天使』と呼ばれるような彼らが、顔を出す『仕事』として、ときに非現実的に、かつ不気味なまでのリアルで演じてみせるという、痛烈なステージング。舞台で動く彼らは、その身体に体温や体重を感じさせる、紛うことなき人間だったのです。
けれども、最後に手を振りながら笑顔で去る三人の背中に、私は天使の羽根が見えてしまった。

天使にもいろんな天使がいる。
人に幸せを運ぶ天使。
人に祈られる天使。
そして。
日々、声を収録する天使。
天使のお仕事、お見せします。

 

入江玲於奈、西山宏太朗、谷口悠。この三人の天使が見せるエンターテイメントを、この先も追いかけて行きたい。
そう強く思える、本当に魅力的な公演でした。